

こんにちは!さっぱどです。
今回は、村上春樹さんの「一人称単数」です。
いつもながら、すらすら読める文章は、
読んでいて気持ちがいい。
村上さんの作品はほぼ完読。
すぅーと文体が入ってくる。
収められている八作品は、こちら。
- 石のまくらに
- クリーム
- チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ
- ウィズ・ザ・ビートルズ with the Beatles
- 「ヤクルト・スワローズ詩集」
- 謝肉祭 (Carnavai)
- 品川猿の告白
- 一人称単数

その中から「ヤクルト・スワローズ詩集」の
一節、ささやかな幸福感を紹介します。
レビュー:敗れることに備えようではないか。
「どのように相手に勝つか」より、
「どのように負けるか」というところから人生の本当の知恵は育つ。
P.131

なにはともあれ世界中のすべての野球場の中で、ぼくは神宮球場にいるのが一番好きだ。
一塁側内野席か、あるいは右翼外野席。そこでいろんな音を聞き、いろんな臭いを嗅ぎ、空を見上げるのが好きだ。吹く風を肌に感じ、冷えたビールを飲み、まわりの人々を眺めるのが好きだ。チームが勝っていても、負けていても、ぼくはそこで過ごす時間をこよなく愛する。
もちろん負けるより勝っていたほうがずっといい。当たり前の話だ。でも試合の勝ち負けによって、時間の価値や重みが違ってくるわけではない。時間はあくまで時間だ。一分は一分であり、一時間は一時間だ。ぼくらはなんといっても、それを大事に扱わなくてはならない。時間とうまく折り合いをつけ、出来るだけ素敵な記憶をあとに残すことーーーそれが何より重要になる。
(中略)
でもまあ、それはいい。小説のことを考えるのはやめよう。そろそろ今夜の試合が始まろうとしている。さあ、チームが勝つことを祈ろうではないか。そしてそれと同時に(密かに)、敗れることに備えようではないか。
P.148-149

引用の中から、五点。
赤が結論、黄色が理由です。
うまく折り合いをつけるところなんかは、
大人の感じがして、素敵ですね。
- 「どのように負けるか」というところから人生の本当の知恵は育つ。
- そこで過ごす時間をこよなく愛する。
- 時間とうまく折り合いをつけ、
- 敗れることに備えよう
- 出来るだけ素敵な記憶をあとに残すことーーー
まとめ:”時間をこよなく愛する”

村上さんの敗者の美学が素敵です。
”そこで過ごす時間をこよなく愛する”
村上さんの世界の在り方が、なんとも愛しい。
表現者の世界との折り合いのつけ方が出ていて、面白い。
私も実際に神宮球場の内野席で観戦したことがあるのですが、
蒼い天然芝が映える球場です。
思わず光景が浮かぶ。
ビールが欲しくなりますね。
(村上さんが好きなのは、黒ビール)


どれを取っても、
洗練された珠玉の短編集。
無駄が削ぎ落とされた作品群は、
”悪くない”選択です。
それでは、また。